AFTER READING / ARCHIVE

松本清張賞応募時の資料

『風に向かって飛び立つ白鳥のように』|2005

本編の末尾に残っていた、
31歳当時の応募資料です。

『風に向かって飛び立つ白鳥のように』は、 2005年秋に脱稿し、松本清張賞へ応募しました。

当時の原稿ファイルには、 本編の「(了)」のあとに、 応募時の作品情報、略歴、筆歴、 そして二ページにわたる梗概がそのまま残っていました。

ここでは、それらを資料として掲載します。

原資料の内容をできるだけそのまま残し、 Web表示のため改行・空白のみを整えています。 応募時資料に記載されていた住所、郵便番号、電話番号、 当時のメールアドレスなどの個人連絡先は非掲載としています。
APPLICATION DATA

応募時の作品情報

題名
風に向かって飛び立つ白鳥のように
枚数
四七〇枚(四〇〇字換算枚数)
氏名
武市 真吾(たけいち しんご)
年齢
三十一歳
職業
会社員
PROFILE / 2005

31歳の略歴

  • 1974 京都市生まれ。
  • 1997 新潟大学理学部生物学科 卒業
  • 1999 新潟大学大学院自然科学研究科 博士前期課程 生体機能専攻修了
  • 1999 健康医療機器メーカー入社。社長秘書、株式公開準備室担当
  • 2001 シーシーエス株式会社入社 経営企画室
    事業開発室 参事 現在に至る
筆歴:なし

現在のプロフィールから振り返れば、 このあと研究開発、講演、執筆、個人事業、 技術営業、企業経営などへ時間が続いていきます。

しかし、この応募資料の中にいる武市真吾は、 まだ31歳の会社員です。

その時点の自分を示す資料として、 「筆歴:なし」という一行もそのまま残します。

SYNOPSIS

応募時の梗概

梗概《風に向かって飛び立つ白鳥のように》
武市 真吾

放射性物質散布事件に巻き込まれた店町は、事件の犯人が自分の憧れ慕っていた人物であったという事実に心を痛め、その犯行動機の理解に苦しんだ。

失望の渦中、図書館で目にした雑誌記事をきっかけに、店町はある中小企業の社長-宗像の存在を知った。白鳥が集う新潟の田舎町から集団就職で大阪に出てきた宗像のエピソードに感動した店町は、研究者としての道を捨てその会社に就職することを決意した。

入社式で命ぜられた職務は社長秘書だった。既にその会社には切れ者秘書-刈谷がいたが、彼は業務のすべてを店町に託してある日突然会社を辞めてしまう。ひとり残された店町の業務は多忙と困難を極めた。会社の看板を背負っているという重圧、宗像から掛けられた大きな期待。その期待に応えるべく店町は邁進した。

宗像は北新地、宗右衛門町で飲み明かした翌朝も時間に遅れることなく出社する。その姿は偽りのない偉大な背中として店町の目に映っていた。幾多の困難を乗り越えてきた宗像の過去、左手小指の先がないというエピソードにも店町は胸を熱くした。宗像の社員を思う心は国境を越え、上海工場の人々にも通じた。

しかし業績が順調に伸びはじめた頃、宗像はコントロールを失いはじめた。それを敏感に察知した店町は、同行予定のなかった列車に飛び乗って社長に直談判をしようと試みた。しかしその思いは届かなかった。時折宗像が見せる温かい表情、熱く語る夢、模範的な行動が忠誠心という形で店町の心を支配していた。宗像に歯向かうこと、それは特別扱いされているという一種の優越感を手放すことを意味していた。

その優越感など捨て去ってもいいと感じるような出来事が店町の身に起きた。店町と社内恋愛関係にあった女性-木村佳音が宗像からセクハラ被害にあったのである。しかし店町は軽はずみな行動にはでなかった。佳音が止めたのである。佳音と交際関係にあるという事実を知らない宗像のもとで、店町は三ヶ月間息を潜めて過ごした。そして転職先を決めてから店町は宗像に真実を確かめに社長室に入った。

宗像が店町に浴びせた言葉は、人の心を無視した残酷なものだった。尊敬していた人物に裏切られたという失望は、時間を経て店町の中で別の思いへと変化した。

善行の対価としての許しとは如何なるものか。公平な制裁とは如何なるものか。店町は自分の心に問いかけ答えを求めた。

店町は社会ルールに忠実な白鳥の姿に慰めを求めた。宗像の故郷を目指して車を走らせた。その近くにある銀行の貸金庫に、セクハラ事件の真実を記録したデータを預けてから三年半が経過している。感謝の気持ちとともに存在する裏切りに対する復讐心がその時間の経過の中でどのように変化しているのか店町自身にもまだわからない。

※原資料の文章を掲載しています。 2026年の表現へ書き換えることはせず、 Web上で読めるよう段落と改行のみを整理しています。
FROM 2005 TO 2026

21年前の自分が書いた「梗概」を読む

今回この資料を読み返して、 本編とは少し違う面白さを感じました。

470枚の物語を数ページに縮めるため、 31歳の自分が何を残し、 何を中心に置いたのかが見えるからです。

最後に残したのは、 単純な復讐や決着ではありませんでした。

感謝の気持ちとともに存在する裏切りへの復讐心が、 時間の中でどのように変化したのか。

そして、その答えは店町自身にもまだ分からない。

2026年に作品を読み返して感じたことと、 2005年の応募時に自分自身が書いた梗概の終わりが、 思いのほか近い場所にありました。